A.お子様が複数いて、土地・建物を誰か一人に引き継いでもらう予定なら、建替えと合わせて遺言書を作ることをおすすめします。
自宅不動産は現金のように均等に分けにくく、遺言書がないと、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。ただし、遺言書を書くだけで安心とは限りません。「自宅を誰が継ぐか」「ほかのお子様へ何を残すか」まで決めることが大切です。
なぜ建替え時が相続対策のよい機会なのですか?
建替えでは、次のことを同時に決めるためです。
- 土地は現在の名義のままにするか
- 建物を誰の名義にするか
- 建築資金を誰が負担するか
- 住宅ローンを誰が借りるか
- 将来、誰が住む予定か
- 介護や維持管理を誰が担うか
- 相続後に売却するか、住み続けるか
ここが曖昧なまま建てると、相続時に「資金を多く出したのは誰か」「親の世話をしたのは誰か」「家を売るのか残すのか」といった意見の違いが表面化しやすくなります。
遺言書がないとどうなりますか?
遺言書がない場合、原則として相続人全員による遺産分割協議で、自宅を誰が取得するか決めます。
話し合いがまとまらない間、不動産は相続人間の共有状態となり、売却や大きな処分を進めにくくなります。さらに次の相続が発生すると、権利関係が複雑になる可能性があります。法務省「不動産を相続した方へ」
例えば、子どもが3人いる場合に「3人で3分の1ずつ共有すれば公平」と考えがちですが、将来は次のような問題が生じます。
- 住む子と住まない子で負担感が違う
- 固定資産税や修繕費の負担が決まらない
- 売却について意見が分かれる
- 共有者の一人が亡くなり、権利者が増える
- 認知症になった共有者がいると処分が難しくなる
そのため、居住用の土地・建物は、安易な共有よりも一人へ承継させ、ほかの子へ別の財産を配分する方法が一般的に整理しやすいと考えられます。
揉めにくい分け方の代表例
1.土地と建物を一人へ相続させる
実際に住み続ける子へ、土地と建物をまとめて相続させます。土地と建物の所有者を同じにすると、将来の管理や売却もしやすくなります。
ほかの子には次の財産を配分します。
- 預貯金
- 有価証券
- 生命保険金
- 別の不動産
- 代償金
2.代償分割を利用する
自宅を取得する子が、ほかの子へ一定の現金を支払う方法です。
例えば、長男が土地・建物を相続し、長女へ1,000万円を支払う、といった設計です。代償分割には税務上の計算ルールがあるため、金額と支払い方法を税理士へ確認します。国税庁「代償分割が行われた場合」
自宅を取得する子に十分な現金がない場合は、生命保険を代償金の原資として準備する方法もあります。
3.将来売却して現金を分ける
誰も住まない予定なら、相続後に土地・建物を売却し、代金を分ける方法もあります。
ただし、売却するまでの固定資産税、家財処分、解体、仲介手数料などを誰が負担するかも遺言や別紙で整理しておきましょう。
遺言書があっても「遺留分」には注意
配偶者や子どもには、最低限の相続権として「遺留分」が認められています。
例えば、「すべての財産を長男に相続させる」と遺言しても、ほかの子から遺留分侵害額の請求を受ける可能性があります。
そのため、遺言書を作る際は次の点を確認します。
- 自宅の時価・相続税評価額
- 預貯金や保険などを含む総財産
- 借入金などの債務
- 各相続人のおおよその遺留分
- 自宅を取得する子が現金請求へ対応できるか
「土地を長男に、預金をほかの子に」と具体的に配分し、極端な不公平を避けることが重要です。
遺言書はどの方式がよいですか?
| 方式 | 特徴 | 向いているケース |
|---|---|---|
| 公正証書遺言 | 公証人が作成し、原本を公証役場で保管 | 不動産が中心、子が複数、争いが心配 |
| 自筆証書遺言+法務局保管 | 自分で作成して法務局へ預ける | 内容が比較的単純で費用を抑えたい |
| 自宅保管の自筆証書遺言 | 手軽だが、紛失・未発見・形式不備のリスクがある | 原則として専門家の確認を推奨 |
おすすめは公正証書遺言
建替え後の土地・建物が主な財産で、お子様が複数いる場合は、公正証書遺言が比較的安心です。
公証人が本人の意思を確認して作成し、原本が公証役場に保管されます。作成には原則として証人2人が必要です。手数料は財産額や財産を受け取る人の数などによって異なります。日本公証人連合会「遺言」
自筆証書遺言を選ぶ場合
自筆証書遺言は、財産目録を除く本文を原則として本人が手書きし、日付・氏名・押印などの方式を守る必要があります。
法務局の保管制度を利用すると、紛失や改ざんのリスクを抑えられ、相続開始後の家庭裁判所による検認も不要になります。宮崎地方法務局の保管手続きは予約制です。宮崎地方法務局「自筆証書遺言書保管」
ただし、法務局は遺言内容の妥当性や遺留分対策まで判断してくれるわけではありません。
遺言書に入れておきたい内容
- 土地と建物を誰に相続させるか
- 預貯金・有価証券の配分
- 住宅ローンなど債務の扱い
- 家財や仏壇・墓の扱い
- 代償金を支払う場合の金額と期限
- 遺言執行者の指定
- 相続人が先に亡くなった場合の予備的な指定
- 遺言内容を決めた理由を記す付言事項
付言事項には法的強制力はありませんが、「なぜこの子に自宅を残すのか」「ほかの子を軽く扱ったわけではない」といった気持ちを伝えることで、感情的な対立を和らげる効果が期待できます。
建替え時の名義と資金負担に注意
親がお金を出し、子ども名義で建てる場合
親が建築費を負担したのに建物を子ども名義にすると、親から子への贈与と判断される可能性があります。
親名義の土地に、子どもが建物を建てる場合
土地は親、建物は子という名義も可能ですが、次の点を整理する必要があります。
- 土地の使用貸借または賃貸借
- 住宅ローンの担保設定
- 親の相続時に土地を誰が取得するか
- 建物を所有する子以外の遺留分
- 将来の売却方法
建物所有者とは別の子が土地を相続すると、兄弟間で土地と建物の所有者が分かれ、問題になることがあります。遺言書で土地の承継先を明確にしておく必要があります。
建替え前と完成後、いつ遺言を作りますか?
おすすめは二段階です。
- 建替え契約前
誰が資金を出し、誰の名義にするか、将来誰が継ぐかを家族で確認する - 完成・登記後
新しい建物の登記事項と最終的な財産額を反映し、正式な遺言書を作成または更新する
健康状態や判断能力に不安がある場合は、完成まで待たず、先に遺言書を作成してください。遺言能力が疑われる状態になってからでは、作成の有効性をめぐって争いになる可能性があります。
遺言書は一度作ったら変更できないものではありません。財産や家族の状況が変われば、方式を守って作り直せます。
遺言書では解決できない問題もあります
遺言書が効力を持つのは、原則として亡くなった後です。認知症などで判断能力が低下した後の財産管理には直接対応できません。
必要に応じて、次の制度も別途検討します。
- 任意後見契約
- 家族信託
- 財産管理等委任契約
- 生命保険の受取人指定
- エンディングノート
家族信託には費用や税務上の注意点もあるため、必要性の薄い家庭まで一律に利用する必要はありません。
建替えと一緒に進める手順
- 土地・建物・預貯金・保険・借入金を一覧にする
- 法定相続人を戸籍で確認する
- 土地と建物を誰が利用・承継するか家族で話す
- 建築資金と建物名義を決める
- 財産評価と遺留分を試算する
- ほかの子へ渡す財産や代償金を検討する
- 弁護士・司法書士・税理士などへ相談する
- 公正証書遺言などを作成する
- 完成・登記後に内容を再確認する
- 3~5年ごと、または家族状況が変わったときに見直す
結論
土地がご本人名義で、お子様が複数いるなら、建替えを「相続設計のタイミング」と考え、遺言書を作ることをおすすめします。
特に大切なのは、単に「長男へ土地を残す」と書くことではありません。
- 土地と建物をできるだけ同じ人へ承継させる
- 安易な共有名義を避ける
- ほかの子の遺留分に配慮する
- 預金・保険・代償金で公平感を整える
- 遺言執行者を指定する
- 元気なうちに家族へ考えを伝える
この6点を建替え資金計画と一緒に整理することで、建替え後の安心だけでなく、将来のお子様の負担も減らしやすくなります。
※相続人の構成、配偶者の有無、財産額、建築資金の負担者によって適切な方法は異なります。正式な遺言作成と税額判断は、弁護士・司法書士・税理士・公証人へ確認してください。








