A. 「土地・建物」と「建替え・納税資金」をセットにし、公正証書遺言で遺言執行者まで指定する構成が基本です。
お子様が存命の場合、孫は原則として法定相続人ではありません。そのため、孫へ住宅を確実に渡すには遺言書による「遺贈」が必要です。
住宅だけを孫へ遺贈しても、古家の解体費、建築費、相続税、登記費用を支払えなければ、孫が住宅を維持できません。次の4点を一体で設計することが重要です。
- 土地を誰に渡すか
- 既存建物または建替え後の建物を誰に渡すか
- 建替え・解体・納税に使う資金をどう残すか
- 配偶者や子どもの遺留分をどう確保するか
最も分かりやすい遺言の構成例
一般的には、次のような構成が検討できます。
孫に遺贈する財産
- 対象土地の全部
- その土地上にある建物
- 建替え後の新居
- 建替え・解体・登記・納税用の預貯金
- 必要に応じて家財や住宅設備
- 火災保険などに関する権利
遺言書で併せて決める事項
- 遺言執行者
- 孫が先に亡くなった場合の次の取得者
- 住宅ローンや抵当権が残っていた場合の扱い
- 配偶者が住んでいる場合の居住方法
- ほかの相続人に渡す預貯金
- 遺留分を請求された場合の支払資金
- 固定資産税、解体費、登記費用の負担者
遺言書では、不動産を登記簿どおりに特定する必要があります。土地の所在地だけでなく、地番・地目・地積、建物の家屋番号などを記載します。
古い家を建て替える予定がある場合の注意点
遺言書を作った後に既存建物を解体すると、遺言書に記載された建物がなくなります。
例えば、「家屋番号〇番の建物を孫に遺贈する」とだけ書いて、その建物を生前に解体した場合、建物に関する遺贈の対象が消滅してしまいます。新築した建物が自動的に同じ遺贈対象になるとは限りません。
そのため、次のいずれかで対応します。
- 建替え後に新しい家屋番号を確認し、遺言書を作り直す
- 土地と、相続開始時にその土地上に所有する建物を対象とするよう専門家が設計する
- 建替え前と完成後の2回、遺言内容を確認する
- 予備的遺言を設ける
実務上は、建替え後に土地・新築建物の登記が完了した段階で、公正証書遺言を見直す方法が最も確実です。
建替え費用はどのように残せばよいですか?
方法1 孫へ現金も一緒に遺贈する
土地・建物と併せて、建替え資金や納税資金として一定額の預貯金を孫へ遺贈します。
ただし、「建替え費用として3,000万円」と目的だけを書くのではなく、どの預金や金額を遺贈するか具体的に特定する方が確実です。
必要資金としては次を見込みます。
- 既存住宅の解体費
- アスベスト調査・除去費
- 建築本体工事費
- 地盤改良費
- 外構・給排水工事費
- 仮住まい・引越し費
- 測量・境界確定費
- 登記・設計・確認申請費
- 相続税・登録免許税・不動産取得税
- 完成までの固定資産税・維持管理費
- 予備費
建替え費用だけで預貯金を使い切る構成ではなく、孫が相続税や維持費も払える金額を残すことが大切です。
方法2 生命保険で現金を確保する
孫を死亡保険金の受取人に指定して、建替え・納税資金を確保する方法もあります。
ただし、お子様が存命で孫が法定相続人ではない場合、孫が受け取る死亡保険金には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠を使えないのが原則です。国税庁「相続税の課税対象になる死亡保険金」
また、保険金受取人の指定は遺言書だけでなく、保険会社の登録内容を必ず確認してください。
方法3 遺言信託・民事信託を利用する
孫が未成年である場合や、一度に多額の現金を渡すことが心配な場合は、信託を利用し、建替えの進行に合わせて資金を支払う方法もあります。
例えば、受託者が次の順番で支払います。
- 解体契約時
- 建築着工時
- 中間金支払時
- 完成・引渡し時
- 登記・納税時
ただし、信託契約の設計費用や管理負担があるため、住宅と建替え資金が高額な場合に検討する方法です。
孫への遺贈には相続税の2割加算があります
孫が遺贈によって財産を取得する場合、原則として孫の相続税額に20%が加算されます。
例外は、孫の親である被相続人の子がすでに亡くなっているなどの理由で、孫が代襲相続人になる場合です。国税庁「相続税額の2割加算」
なお、孫を養子にしても、実子が存命で孫が代襲相続人でない場合には、原則として2割加算の対象です。「養子にすれば必ず2割加算を避けられる」というものではありません。
遺贈の登記費用も確認しましょう
孫が法定相続人ではない場合、土地・建物の特定遺贈では、相続人が相続登記をする場合より登録免許税が高くなることがあります。不動産取得税が課税される可能性もあります。
税額は次の条件で変わります。
- 孫が法定相続人か
- 特定遺贈か包括遺贈か
- 土地・建物の固定資産税評価額
- 孫が代襲相続人か
- 建物が新築か既存住宅か
- 宅地や住宅の軽減措置を受けられるか
相続税だけでなく、登記時に必要な現金まで税理士と司法書士に試算してもらいましょう。
配偶者が住んでいる場合はどうしますか?
祖父が亡くなった後も祖母が住み続ける予定であれば、住宅をすぐ孫へ渡すだけでは、祖母の居住が不安定になる可能性があります。
次の構成を検討します。
- 祖母が亡くなった後に孫が取得する仕組み
- 祖母に一定期間の使用権を認める
- 配偶者居住権を設定する
- 祖母を当初受益者、孫を後継受益者とする信託
- 祖母の生活費・介護費を別に確保する
ただし、配偶者居住権を設定した建物を解体・建替えする場合は権利関係が複雑になります。近い将来建替える予定なら、配偶者居住権だけでなく信託なども比較してください。
子どもの遺留分に注意が必要です
配偶者や子どもには、原則として最低限の取り分である遺留分があります。
孫へ自宅と建替え資金の大部分を遺贈すると、子どもや配偶者から孫へ遺留分侵害額請求が行われる可能性があります。現在の制度では、基本的に金銭で請求されるため、孫に支払資金がなければ住宅を売却する事態にもなり得ます。
対策としては次の方法があります。
- 配偶者・子どもにも預貯金を残す
- 生命保険などで遺留分支払資金を準備する
- 孫への遺贈額を遺留分の範囲内で調整する
- 生前に家族へ遺贈の理由を説明する
- 遺言書に付言事項を記載する
付言事項に法的な強制力はありませんが、「なぜ孫へ住宅を残したいのか」を伝える効果はあります。
遺言執行者は指定した方がよいですか?
孫への不動産の遺贈では、遺言執行者を指定することをおすすめします。
遺言執行者は、遺言内容に従って不動産の名義変更などを進めます。相続人と孫の関係が複雑な場合は、司法書士や弁護士などの専門家を指定する方法があります。
遺言書には、遺言執行者へ次の権限を与える構成を検討します。
- 遺贈の履行
- 不動産登記
- 預貯金の解約・払戻し
- 建物・家財の引渡し
- 必要費用の支払い
- 相続人・受遺者への通知
特定遺贈で遺言執行者がいる場合、遺言執行者が遺贈の履行を進めることができます。
住宅ローンが残る場合の注意点
住宅を孫へ遺贈しても、住宅ローンの債務者が自動的に孫へ変更されるわけではありません。土地・建物に設定された抵当権も、そのまま残ります。
次の事項を金融機関へ確認しましょう。
- 団体信用生命保険でローンが完済されるか
- 孫が債務を引き継げるか
- 一括返済を求められないか
- 遺贈による所有権移転を認めるか
- 孫が未成年の場合はどうするか
- 建替えローンの残高をほかの相続財産で清算するか
孫へ残す住宅には、できる限り返済方法が決まったローンだけを残すのが安全です。
建替えの時期別に考える3つの構成
構成1 祖父母が生前に建て替えてから孫へ遺贈
- 土地・新居は祖父母名義
- 祖父母が建築費を負担
- 建替え後に公正証書遺言を更新
- 孫へ土地・新居・納税資金を遺贈
権利関係は分かりやすい一方、祖父母の老後資金を減らしすぎないことが重要です。
構成2 古家と土地を孫へ遺贈し、建替え資金も残す
- 孫へ土地・既存建物を遺贈
- 建替え用の預貯金も遺贈
- 孫が相続後に解体・新築
- 遺言執行者を指定
相続後に孫が自分の希望で建て替えられますが、相続税・登記費用・建築費を十分に準備する必要があります。
構成3 孫が生前に建て替え、土地を後から遺贈
- 土地は祖父母名義
- 孫が建物を建築
- 土地使用貸借契約を作成
- 遺言で土地を孫へ遺贈
祖父母の建築資金負担を抑えられますが、遺言が変更された場合、孫が土地を取得できないリスクがあります。また、住宅ローンの担保や祖父母の同意が必要です。
この方法を選ぶ場合は、使用貸借・遺言・担保・相続税を同時に整える必要があります。
おすすめしやすい基本構成
一般的には、次の組み合わせが比較的分かりやすくなります。
- 土地と建物を同じ孫へまとめて特定遺贈する
- 建替え・納税用の預貯金も孫へ遺贈する
- 配偶者と子どもには別の預貯金などを残す
- 専門家を遺言執行者に指定する
- 孫が先に亡くなった場合の予備的遺言を設ける
- 建替え後には必ず遺言書を更新する
- 公正証書遺言を利用する
ただし、遺産額、相続人、孫の年齢、祖父母の老後資金によって適切な構成は変わります。
宮崎県で準備する資料
- 土地・建物の登記事項証明書
- 固定資産税の課税明細書
- 公図・地積測量図
- 建物の劣化・耐震診断
- 建替え概算見積書
- 預貯金・保険・有価証券の一覧
- 住宅ローン残高証明書
- 推定相続人の戸籍
- 孫との関係が分かる戸籍
- 90歳頃までの生活・介護資金計画
宮崎県では土地の評価が比較的低くても、解体費・建築費は土地評価に比例して安くなるわけではありません。「相続税がかからないから大丈夫」ではなく、実際の建替え資金を別に試算することが大切です。
まとめ
孫へ住宅を遺贈する場合は、住宅だけでなく次の5点をセットにして設計しましょう。
- 土地と建物を同じ孫へ遺贈する
- 建替え・解体・納税資金も確保する
- 配偶者・子どもの遺留分を確保する
- 専門家を遺言執行者に指定する
- 建替え後に公正証書遺言を更新する
特に孫への遺贈は、相続税の2割加算や登記費用が問題になります。祖父母の老後資金を使いすぎない範囲で「生前に建て替える案」と「孫が相続後に建て替える案」を比較してください。








