A. 設計や見積りなどの準備はできますが、解体工事や新築工事の開始は原則として避けるべきです。
遺産分割が終わるまで、相続した土地・建物は相続人全員に関係する財産です。誰が土地を取得するか決まっていない状態で、一人の相続人が古い家を解体したり、新居を建てたりすると、工事の差止めや損害賠償、費用負担をめぐるトラブルにつながる可能性があります。
「現在住んでいる」「固定資産税を払っている」「介護をしていた」という事情だけで、単独で建て替えられるわけではありません。
協議中でもできること・避けるべきこと
| 内容 | 遺産分割前の対応 |
|---|---|
| 建替え相談・概算見積り | 可能 |
| 間取りの検討 | 可能 |
| 住宅ローンの相談 | 可能。ただし融資確定は難しい |
| 登記事項証明書・公図の取得 | 可能 |
| 法定相続人の調査 | 可能 |
| 敷地調査・測量 | 共有地への立入りについて同意確認が必要 |
| 地盤調査 | 相続人全員の同意を取るのが安全 |
| 既存建物の解体 | 原則として全員の書面同意が必要 |
| 新築工事の開始 | 遺産分割と相続登記後が原則 |
| 土地への抵当権設定 | 原則として権利者全員の協力が必要 |
建替え準備まですべて止める必要はありません。建物を壊したり、土地の状態を変えたりしない範囲で、資金計画や設計、法的調査を先行させることは可能です。
相続人全員が同意すれば、先に建て替えられますか?
相続人全員が建替えに賛成し、書面で同意すれば進められる可能性はあります。ただし、単なる「建替えに賛成します」という承諾だけでは十分ではありません。
少なくとも、次の事項を明確にする必要があります。
- 既存建物を解体すること
- 解体費を誰が負担するか
- 土地を誰が相続する予定か
- 新しい建物を誰の名義にするか
- 建築費を誰が支払うか
- 土地を無償で使用するのか、地代を払うのか
- 住宅ローンの抵当権を設定するか
- 遺産分割の結果が予定と変わった場合の扱い
- 建替え費用を相続時にどう精算するか
全員が賛成しているのであれば、工事だけを先行させるより、遺産分割協議書を作成して相続登記まで済ませる方が確実です。
一人でも反対している場合はどうなりますか?
相続人の一人が反対している場合、持分の多い相続人だけで建替えを決めるのは困難です。
建替えは、古い建物を失わせ、土地の利用状態を大きく変える行為です。相続人の過半数が賛成していても、一人の反対を無視して解体や新築を強行することは避けなければなりません。
また、反対者が建築費を負担していなくても、その人の土地に対する相続上の権利がなくなるわけではありません。
建築確認が下りれば工事を始められますか?
建築確認は、建物が建築基準法などに適合しているかを審査する手続きです。遺産分割や土地の所有権を解決するものではありません。
仮に確認済証を取得できても、相続人の承諾がなければ、民事上安全に工事を進められるとは限りません。建築確認済証は、共有者や共同相続人の同意書の代わりにはなりません。
住宅ローンは利用できますか?
遺産分割前の土地で住宅ローンを組むことは、一般的に難しくなります。
金融機関は通常、建替え予定地と新居へ抵当権を設定します。しかし、土地の取得者が決まっていなければ、誰が担保を提供するのか確定できません。
相続人全員が法定相続分で相続登記をしたとしても、共有者全員の署名・押印や担保提供を求められることがあります。お子様を住宅ローンに関与させたくない場合は、安易に法定相続分で共有登記せず、最終的な名義を検討する必要があります。
先に自己資金で建てれば問題ありませんか?
ローンを利用せず、自己資金で建てる場合でも問題は残ります。
新しい建物を自分の名義にできても、その敷地を最終的に別の相続人が取得すれば、土地と建物の所有者が異なる状態になります。その結果、次の問題が生じる可能性があります。
- 土地使用料を求められる
- 土地の売却が難しくなる
- 将来の相続がさらに複雑になる
- 新居を担保に融資を受けにくくなる
- 土地の使用権をめぐって争いになる
「自分のお金で建てるから大丈夫」とは限らないため、土地の取得者を先に確定することが重要です。
相続登記の期限だけが迫っている場合は?
遺産分割がまとまらなくても、相続登記の義務を果たすために「相続人申告登記」を利用できる場合があります。
ただし、相続人申告登記は誰が不動産を取得するか決定する制度ではありません。住宅ローンの抵当権設定や、単独での建替えを可能にするものでもありません。法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」
期限対策と建替えを進められる状態にすることは、別問題として考えましょう。
話し合いがまとまらない場合の解決方法
当事者だけで合意できない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます。
調停では、相続人それぞれの希望や不動産の評価、代償金を支払えるかなどを確認しながら合意を目指します。調停が成立しなければ、原則として審判へ移り、裁判官が分割方法を判断します。裁判所「遺産分割調停」
解決案としては、次の方法が考えられます。
- 建替える人が土地・建物を取得する
- ほかの相続人へ代償金を支払う
- 別の預貯金などをほかの相続人が取得する
- 土地を分筆して取得する
- 不動産を売却して代金を分ける
- 一定期間、建替えを見送る
古い家が危険な場合はどうしますか?
屋根瓦の落下や建物倒壊など、緊急の危険がある場合には、安全確保のための応急措置を行える可能性があります。
ただし、危険防止のための補修と、建物全体を解体して新築することは別です。緊急性を理由に、そのまま建替えまで単独で進められるとは限りません。
危険が迫っている場合は、現況写真や建築士の調査報告を残し、相続人への通知、宮崎県内の弁護士への相談、自治体の空き家・建築担当窓口への確認を行いましょう。
シニアの建替えで特に注意したいこと
遺産分割の長期化を見込まずに解体すると、仮住まいの家賃が増え続けます。また、調停中に年齢が上がると、住宅ローンの返済期間や団体信用生命保険の条件が厳しくなる可能性があります。
そのため、次の順番が安全です。
- 法定相続人と遺言書を確認する
- 土地・建物の登記名義を確認する
- 建物と敷地の評価額を調べる
- 建替え資金と代償金の両方を試算する
- 遺産分割協議をまとめる
- 相続登記と住宅ローン審査を進める
- すべて整ってから解体する
まとめ
遺産分割協議がまとまっていなくても、間取り、見積り、資金計画などの準備は進められます。しかし、解体や新築工事の開始は、原則として遺産分割と相続登記が完了してからにしましょう。
相続人全員が賛成している場合でも、口頭の承諾だけで工事を始めず、解体・土地利用・新居名義・建築費・担保設定について書面化する必要があります。一人でも反対している場合は工事を強行せず、司法書士や弁護士に相談し、必要に応じて遺産分割調停を利用することが安全です。








