結論
手すりは、次の4つの動作をする場所へ優先して設置します。
- 立ち上がる
- 座る
- 段差を上り下りする
- 身体の向きを変える
シニア住宅で特に重要なのは、階段、トイレ、浴室、玄関です。廊下や寝室は、現在の身体状態に応じて設置し、将来追加できるよう壁に下地を入れておく方法がおすすめです。
優先順位
| 優先度 | 設置場所 | 主な目的 |
|---|---|---|
| 高い | 階段 | 昇降・転落防止 |
| 高い | トイレ | 立ち座り・姿勢保持 |
| 高い | 浴室 | またぎ・立ち上がり・転倒防止 |
| 高い | 玄関 | 上がり框の昇降・靴の脱ぎ履き |
| 状況による | 廊下 | 伝い歩き |
| 状況による | 寝室 | ベッドからの起き上がり |
| 状況による | 洗面脱衣室 | 着替え・方向転換 |
| 状況による | 屋外通路 | 玄関から駐車場までの移動 |
手すりの種類と役割
縦手すり
身体を引き上げたり、段差をまたぐときに使用します。
設置に向く場所は次のとおりです。
- 玄関の上がり框
- 浴室の出入口
- 浴槽をまたぐ位置
- トイレの入口付近
- 勝手口の段差
横手すり
歩行中に身体を支えたり、姿勢を保つために使用します。
- 廊下
- 階段
- 浴槽内
- 屋外アプローチ
- 寝室からトイレまでの動線
L型手すり
縦と横を組み合わせた手すりで、立ち座りと姿勢保持の両方に使えます。
- トイレの便器横
- 浴槽の出入り位置
- 玄関ベンチの近く
1.階段
階段には、少なくとも片側へ連続した手すりを設置します。シニア住宅では、できれば両側にあると安心です。
確認事項
- 階段の途中で手すりが切れない
- 上下端まで連続している
- 最初と最後の段を越えて握れる
- 握りやすい太さ・形状
- 壁との間に手を入れられる
- 服の袖が端部に引っ掛からない
- 夜間の足元照明がある
手すりの端部は壁側へ曲げて納めると、衣服やバッグが引っ掛かりにくくなります。
将来反対側にも設置できるよう、両側の壁に下地を入れておきましょう。国土交通省の補足基準でも、階段の少なくとも片側には当初から設置し、反対側にも将来設置できるようにする考え方が示されています。国土交通省「長寿社会対応住宅設計指針の補足基準」
2.トイレ
便器横には、L型手すりが使いやすいケースが多くあります。
- 横部分:座った姿勢を保つ
- 縦部分:立ち上がるときに引く
- 反対側:必要なら可動式手すり
ただし、便器との距離や高さが合わないと、身体を横へ傾けてしまいます。便座に座った状態で、肘を軽く曲げて握れる位置を確認しましょう。
将来車いすから横移乗する可能性がある場合は、固定手すりが移乗を妨げないよう、跳ね上げ式も検討します。
3.浴室
浴室では複数の動作があるため、1本だけでは足りないことがあります。
浴室入口
縦手すりを設置し、濡れた床で身体の向きを変える際に使います。
洗い場
シャワーチェアから立ち上がる位置に縦またはL型手すりを設けます。
浴槽の縁
浴槽をまたぐ位置に縦手すりを設置します。浴槽のふたや水栓金具につかまらなくて済む位置が重要です。
浴槽内
浴槽から立ち上がる位置に横手すりや斜め手すりを設けます。
浴室は滑りやすいため、吸盤式手すりを恒久的な身体支持用として過信しないでください。壁下地へ確実に固定できる製品が基本です。
4.玄関
玄関には、上がり框の昇降用手すりと、靴を脱ぎ履きするベンチを組み合わせると使いやすくなります。
おすすめの配置
- 上がり框の横に縦手すり
- 室内側に短い横手すり
- ベンチから立ち上がれる位置に手すり
- 玄関扉を開け閉めするときに握れる場所
- 屋外から玄関まで連続した手すり
手すりを握ったまま扉を開けられるか、靴を履いた状態と脱いだ状態の両方で確認しましょう。
5.廊下
伝い歩きが必要な場合は、寝室からトイレ、LDK、玄関までの主要動線に横手すりを設置します。
ただし、廊下の幅が狭い場合、手すりを付けることで車いすが通りにくくなります。
新築時には、手すり設置後の有効幅が次の目安を確保できるか確認しましょう。
- 最低限:78~80cm程度
- 推奨:85~90cm以上
- 介助を想定:100cm以上
元気なうちは手すりを取り付けず、連続した壁下地だけを施工しておく方法もあります。
6.寝室
寝室では、手すりの位置を先に固定するより、ベッドの位置と高さを決めてから検討します。
- 起き上がる
- ベッド端へ座る
- 立ち上がる
- 車いすへ移乗する
- 夜間トイレへ向かう
床置き型手すりは工事不要ですが、ベースにつまずいたり、ベッドとの隙間へ身体が挟まる事故も報告されています。テクノエイド協会「手すりのヒヤリ・ハット情報」
福祉用具専門相談員に、ベッドとの組み合わせを確認してもらいましょう。
7.洗面・脱衣室
洗面脱衣室では、衣服を脱ぐときに片足立ちになる可能性があります。
- 着替え用ベンチ
- ベンチからの立ち上がり用手すり
- 浴室入口の縦手すり
- 洗濯機周辺の移動を妨げない配置
タオル掛けや洗面台へ体重をかけると外れる危険があります。身体を支える手すりとタオル掛けは、明確に分けましょう。
8.屋外・駐車場から玄関
宮崎では雨や台風後に屋外床が濡れ、滑りやすくなるため、玄関から駐車場までの動線も重要です。
- 階段やスロープに連続手すり
- できれば屋根・庇を設ける
- 雨にぬれても滑りにくい床材
- サビに強い屋外用手すり
- 夜間の足元照明
手すりはどこに設置すべきでしょうか?
結論
シニア住宅では、次の5か所を優先して手すりを計画します。
- 玄関・上がり框
- トイレ
- 浴室・脱衣室
- 階段
- 寝室からトイレまでの動線
ただし、手すりは多ければよいわけではありません。「立つ・座る・またぐ・方向転換する」場所に、本人の利き手、身長、身体状況に合わせて設置することが大切です。
新築時には壁の中へ下地を広めに入れ、実際に必要になった時点で手すりを追加できるようにしておく方法がおすすめです。
場所別のおすすめ手すり
| 場所 | おすすめの形状 | 主な目的 |
|---|---|---|
| 玄関外 | 横手すり | 歩行・段差昇降 |
| 上がり框 | 縦・L型手すり | 立ち上がり・靴の脱ぎ履き |
| 廊下 | 横手すり | 伝い歩き |
| トイレ | L型・跳ね上げ式 | 立ち座り・移乗 |
| 浴室入口 | 縦手すり | 濡れた床での出入り |
| 浴槽横 | 縦・横手すり | 浴槽をまたぐ・立ち上がる |
| 洗い場 | 横・L型手すり | シャワーチェアからの立ち座り |
| 脱衣室 | 縦手すり | 着替え・立ち上がり |
| 階段 | 連続した横手すり | 昇降・転落防止 |
| 寝室 | ベッド用手すり | 起き上がり・立ち上がり |
玄関の手すり
玄関では、屋外からの進入、靴の脱ぎ履き、上がり框の昇降という複数の動作があります。
おすすめの配置
- 玄関ポーチから扉までの横手すり
- 上がり框付近の縦手すり
- ベンチから立ち上がるための手すり
- スロープを設ける場合は、その横の連続手すり
縦手すりは、身体を引き上げたり、段差を上り下りするときに有効です。靴を履く動作には、手すりだけでなく腰掛けベンチを組み合わせると安全です。
屋外用手すりは、雨に濡れても滑りにくく、さびにくい製品を選びましょう。
トイレの手すり
トイレでは、便器への接近、方向転換、ズボンの上げ下げ、立ち座りを考えます。
基本的な配置
- 壁側:L型手すり
- 反対側:跳ね上げ式手すり
- 入口付近:必要に応じて縦手すり
L型手すりは、横部分で座位を安定させ、縦部分を握って立ち上がるために使います。
便器の左右どちらに付けるかは、本人の利き手だけでなく、実際の立ち上がり方や介助者の位置で決めます。車いすから移乗する場合は、移乗する側の空間を確保し、跳ね上げ式を検討します。
浴室の手すり
浴室では床が濡れ、裸で身体を守りにくいため、特に慎重な配置が必要です。
優先する場所
- 浴室入口
- シャワーチェアの横
- 浴槽をまたぐ場所
- 浴槽内で立ち上がる場所
- 浴槽から洗い場へ移る場所
浴槽の出入りでは、上から手すりをつかんで身体を引き上げる動作と、横方向に身体を支える動作があるため、縦手すりと横手すりを組み合わせることがあります。
タオル掛けは、人の体重を支える強度がありません。手すり代わりに使用しないようにしましょう。
脱衣室の手すり
脱衣室では、片足立ちで衣服を着脱する場面があり、転倒しやすくなります。
- 浴室出入口の外側
- 着替える場所
- ベンチから立ち上がる位置
- 洗面台の近く
手すりだけでなく、座って着替えられるベンチや椅子を設けると安全です。置き型ヒーターと手すりが近すぎると、やけどや転倒の原因になるため注意しましょう。
階段の手すり
階段には、少なくとも片側へ連続した手すりを設置します。シニア住宅では、可能であれば両側がおすすめです。
設計ポイント
- 途中で途切れない
- 上端・下端を少し水平に延ばす
- 握りやすい太さにする
- 手すり端部を壁側へ曲げる
- 洋服の袖が引っかからない形状
- 階段照明と足元灯を設ける
- 手すりを設置しても有効幅を確保する
国土交通省の補足基準でも、階段の少なくとも片側へ当初から設置し、反対側にも将来設置できるようにする考え方が示されています。国土交通省「長寿社会対応住宅設計指針の補足基準」
廊下の手すり
自立歩行が安定している段階では、廊下全体へ最初から設置する必要がない場合もあります。
ただし、次の動線には壁下地を入れておきましょう。
- 主寝室からトイレ
- 主寝室から洗面・浴室
- LDKから玄関
- 夜間に移動する廊下
手すりを設置すると廊下の有効幅が狭くなります。車いす利用も考える場合は、手すりの出幅を含めて有効幅85~90cm以上を確保します。
長い廊下をつくるより、寝室・トイレ・浴室を近づけ、移動距離自体を短くする方が効果的です。
寝室・ベッド周辺の手すり
ベッド周辺では、次の動作を確認します。
- 寝返り
- 上半身を起こす
- ベッド端に座る
- 立ち上がる
- 車いすへ移乗する
ベッド柵と起き上がり用手すりは同じものではありません。身体と手すりの間に隙間があると、腕や脚、首などを挟む事故につながる可能性があります。
床置き型手すりも、ベース部分につまずいたり、力をかける方向によって動いたりすることがあります。福祉用具専門相談員に確認してもらいましょう。テクノエイド協会「手すりの事故・ヒヤリハット情報」
手すりの高さと太さの目安
一般的な目安は次のとおりです。
| 項目 | 一般的な目安 |
|---|---|
| 廊下の横手すり | 床から75~80cm程度 |
| 階段手すり | 段鼻から75~85cm程度 |
| 握り部分の直径 | 3~3.5cm程度 |
| 壁との隙間 | 手を入れやすい間隔を確保 |
国の高齢者住宅に関する基準では、手すり高さについて700~900mmの範囲などが示されています。国土交通省「高齢者住宅に関する基準」
ただし、身長、腕の長さ、腰の曲がり、左右の筋力によって適切な高さは変わります。現場で本人に立ってもらい、自然に手を下ろした位置を確認するのが確実です。
新築時は「手すり」より「下地」を広く入れる
建替え時点で元気な場合は、必要以上に手すりを設置すると、廊下を狭くしたり、家具配置を制限したりすることがあります。
そこで、次の壁へ構造用合板や補強下地を広く施工しておきます。
- トイレの両側壁
- 浴槽周辺
- 浴室入口
- 脱衣室
- 上がり框
- 主寝室
- 寝室からトイレまでの廊下
完成後に下地位置が分かるよう、図面・写真を住宅会社から受け取って保管してください。
避けたい設置方法
- 石こうボードだけに固定する
- タオル掛けを手すりとして使う
- 本人の動作を確認せず高さを決める
- 手すりによって廊下や出入口を狭くする
- 扉や収納と干渉する
- 手すり端部を突き出したままにする
- 吸盤式を恒久的な手すりとして過信する
- 床置き式のベースを歩行動線へ出す
手すりには体重以上の力がかかることがあります。必ず十分な下地・固定強度を確保します。
介護保険を使える場合
要介護・要支援認定を受けている人が、現在住んでいる住宅へ手すりを取り付ける場合、介護保険の住宅改修費の対象になる可能性があります。
ただし、工事前の申請が必要です。ケアマネジャーに理由書を作成してもらい、自治体の確認を受けてから施工します。厚生労働省「福祉用具・住宅改修」
新築工事に最初から含まれる手すりは、原則として介護保険の住宅改修費の対象外です。
まとめ
優先順位が高いのは、玄関、トイレ、浴室、階段、寝室からトイレまでの動線です。
新築時には階段や浴室など必要性の高い場所へ手すりを設置し、それ以外は補強下地を入れて将来追加できるようにしましょう。最終的な位置は、本人、設計者、必要に応じて理学療法士・作業療法士・福祉用具専門相談員と、実際の動作を確認して決めるのが安全です。








