結論として、新築・建替えの設計段階から計画すれば、室内の段差をなくすだけで費用が大幅に増えることは通常ありません。
費用が増えやすいのは、玄関内部よりも、駐車場や道路から玄関までをスロープにする外構工事です。敷地の高低差、擁壁、排水、手すり、屋根によって数十万円から100万円以上の差が生じることがあります。
「段差ゼロ」を3段階に分けて考える
| 段差をなくす範囲 | 費用への影響 |
|---|---|
| 廊下から各居室 | 新築時ならほとんど増えない場合が多い |
| 玄関土間から玄関ホール | 排水・防水・床仕上げに追加費用が出る場合がある |
| 駐車場・道路から居室まで | スロープや外構工事により増えやすい |
「完全バリアフリー」は法令上の正式な名称ではありません。どこからどこまで段差をなくすのかを、図面と見積書に明記することが大切です。
室内の段差解消は新築時なら比較的低コスト
次のような室内仕様は、新築時に決めれば大きな追加費用になりにくい部分です。
- 廊下と寝室を同じ高さにする
- 引き戸の敷居を床に埋め込む
- トイレ・洗面脱衣室との段差をなくす
- バリアフリー対応ユニットバスを選ぶ
- 床材の厚みを調整して仕上げ高さをそろえる
- 床見切り材を出っ張らせない
完成後に床をかさ上げしたり、建具を交換したりする方が費用は高くなります。国土交通省も、将来を見据えて早めに段差解消などを行う重要性を案内しています。国土交通省・高齢者住宅ジャーナル「バリアフリー・介護リフォーム」
費用が増えるのは玄関アプローチ
住宅の床は、雨水や浸水、湿気から守るため、地面より高く設計します。そのため、駐車場から室内まで完全に水平にするには、緩やかなスロープが必要です。
費用が増える主な工事は次のとおりです。
- コンクリートスロープ
- 両側の手すり
- 車いすの脱輪防止
- 擁壁・土留め
- 排水溝や側溝
- 滑りにくいタイル
- 玄関までの屋根
- 照明
- 車いすの方向転換スペース
後付けの本格的な玄関スロープは、一般に40万~70万円程度から、長いスロープ、屋根、擁壁、駐車場改修まで含む場合は100万~200万円規模になることもあります。
一方、新築時なら造成・基礎・外構を一緒に計画できるため、後付けより抑えやすくなります。
スロープには意外に長い距離が必要
宮崎県は、道路から玄関まで段差がある場合、勾配12分の1~20分の1程度のスロープを設ける考え方を紹介しています。宮崎県「バリアフリー・UD」
例えば50cmの高低差がある場合は、概算で次の長さが必要です。
- 12分の1勾配:水平距離約6m
- 15分の1勾配:水平距離約7.5m
- 20分の1勾配:水平距離約10m
さらに、玄関前や曲がり角には平らな踊り場が必要です。狭い敷地では、費用よりスロープの長さを確保できるかが問題になります。
本当の「完全なゼロ段差」にしなくてもよい場合がある
国土交通省の高齢者住宅向け指針では、玄関出入口について、外側の段差20mm以下、内側の段差5mm以下とする考え方があります。国土交通省「高齢者が居住する住宅の設計に係る指針」
数ミリの水切りまで完全になくすと、雨水や砂が室内へ入りやすくなることがあります。特に宮崎では、台風時の吹き込みを考えなければなりません。
そのため、重要なのは「見た目が完全にゼロ」ではなく、次の状態です。
- 車いすで無理なく通過できる
- すり足でも引っ掛からない
- 雨水が室内へ入らない
- 排水溝やグレーチングが車輪に引っ掛からない
- 玄関扉の気密・水密性能を確保する
宮崎では建物を低くしすぎない
段差をなくすために住宅全体の床を低くすると、大雨や内水氾濫のリスクが高くなる可能性があります。
宮崎では次の順番で計画しましょう。
- ハザードマップで浸水リスクを確認する
- 必要な建物床高を確保する
- 駐車場から玄関まで地盤を緩やかに上げる
- 必要に応じてスロープを設ける
- 玄関前に排水溝と深い庇を設ける
バリアフリーを優先して建物を低くするのではなく、安全な床高を守ったうえでアプローチを調整することが重要です。
フラット玄関の注意点
玄関土間と室内床を同じ高さにすると、靴のままの範囲が分かりにくくなります。
- 床材や色で土足範囲を区別する
- 車いすのタイヤを拭く場所を設ける
- ベンチと手すりを置く
- 玄関収納を通路外へ配置する
- 排水性のある土間床を採用する
- 雨や砂を受けるマットを床へ固定する
- 室内用車いすへの乗り換え場所をつくる
段差の代わりに床材や照明で境界を分かりやすくすると、認知機能が低下した場合にも認識しやすくなります。
費用を抑えるおすすめ方法
敷地全体を完全バリアフリーにするのではなく、**駐車場から玄関、寝室、トイレ、浴室までの「主要な1本の動線」**を段差なく計画します。
- 駐車場を玄関の近くに配置
- 建物と駐車場の高さを新築時に調整
- スロープを外構計画へ最初から組み込む
- 室内は同じ床レベルに統一
- 引き戸を標準採用
- 勝手口など使用頻度の低い場所は無理に段差ゼロにしない
- 将来、簡易スロープを設置できるスペースを残す
- 手すり用の壁下地だけ先に施工する
まとめ
- 室内の段差ゼロは、新築時なら費用増加は比較的小さい
- 外構スロープは敷地条件により数十万~100万円以上増える場合がある
- 宮崎では台風・大雨対策として床高と排水を優先する
- 数ミリの水切りまで完全にゼロにする必要があるか検討する
- 駐車場から水回りまで、主要動線を優先して段差なくする
- 後付けより、建替え時に計画する方が費用を抑えやすい
シニアの建替えでは、家中を過剰にバリアフリー化するより、「毎日使う主要動線を段差なくする」ことが、費用と安全性のバランスに優れています。








