A. 利用できます。ただし、ご本人に判断能力があるうちに、建替えに必要な権限を信託契約へ具体的に定めておく必要があります。
家族信託は、法律上の正式名称というより、信託法を利用して家族に財産管理を任せる仕組みの通称です。
例えば、高齢の親を「委託者兼受益者」、子どもを「受託者」とし、親の土地・建物を信託財産にします。その後に親の判断能力が低下しても、信託契約で権限を与えられた子どもが、受託者として解体・建築契約などを進められる可能性があります。
家族信託に登場する3つの立場
| 立場 | 一般的な家族信託での例 | 役割 |
|---|---|---|
| 委託者 | 親 | 土地・建物を信託する人 |
| 受託者 | 子ども | 信託財産を管理・処分する人 |
| 受益者 | 親 | 信託財産から利益を受ける人 |
親が委託者兼受益者、子どもが受託者となる「自益信託」が、認知症対策ではよく検討されます。
信託法上、受託者は信託契約に定められた目的に従って、信託財産の管理・処分などを行います。e-Gov法令検索「信託法」
家族信託でできる可能性がある建替え手続き
信託契約の内容によって、受託者へ次の権限を与えることができます。
- 既存住宅の解体
- 解体工事請負契約
- 設計・監理契約
- 建築工事請負契約
- 建築確認申請に必要な手続き
- 工事代金の支払い
- 追加・変更工事
- 土地の測量・分筆・合筆
- 新築建物の登記
- 火災保険・地震保険への加入
- 建替え後の修繕・賃貸・売却
- 一定の借入れ・抵当権設定
ただし、「土地と建物を管理する」とだけ書かれた信託契約では、解体や借入れまで認められるか不明確になることがあります。
建替えを想定するなら、解体、新築、資金調達、担保設定、登記まで具体的に定めておくことが重要です。
家族信託の登記はどうなりますか?
信託を始めるとき
親名義の土地・建物を信託財産にする場合、一般的に次の登記を同時に行います。
- 委託者から受託者への所有権移転登記
- その不動産が信託財産であることを示す信託登記
登記簿上の所有者は受託者になりますが、受託者が自分の財産として自由に使えるわけではありません。信託目録に、委託者・受託者・受益者、信託目的などが記録されます。
受託者個人の固有財産と、家族信託の信託財産は区別して管理しなければなりません。
古い家を解体したとき
信託財産となっている既存建物を解体した場合は、解体後1か月以内を目安に建物滅失登記を申請します。
受託者が解体契約を結び、土地家屋調査士へ滅失登記を依頼するのが一般的です。
新居が完成したとき
信託した資金または信託財産を使って新居を建てた場合、受託者名義で建物表題登記・所有権保存登記を行い、併せて信託登記をすることが考えられます。
ただし、誰が建築費を負担したかによって新居の扱いが変わります。
| 建築費の出どころ | 新居の扱い |
|---|---|
| 信託した親の預貯金 | 新居も信託財産とする設計が基本 |
| 受託者である子の自己資金 | 子の固有財産となる可能性がある |
| 親と子が共同負担 | 負担割合・所有持分・信託部分の整理が必要 |
| 住宅ローン | 借主、返済者、抵当権、所有者の調整が必要 |
「土地は信託財産、新居は子どもの個人財産」という組み合わせになると、土地と建物の権利関係が複雑になります。契約前に登記方法を決めておきましょう。
建築工事請負契約は誰が結びますか?
信託契約で建替え権限を与えられた受託者が、注文者として契約します。
契約書では、例えば次のように表示します。
注文者 〇〇信託受託者 山田太郎
受益者 山田花子
実際の表示方法は信託契約と登記内容に合わせ、司法書士と建築会社で確認します。
建築会社には、次の資料を提示します。
- 信託契約書
- 信託目録を含む登記事項証明書
- 受託者の本人確認書類
- 信託口口座の資料
- 建替え権限・借入権限を確認できる条項
- 受益者や信託監督人の同意が必要な場合はその書面
建築費はどの口座から払いますか?
信託財産から建築費を支払う場合は、受託者個人の口座ではなく、信託財産を管理する専用口座から支払います。
通帳名義や口座名称は金融機関によって異なりますが、受託者の生活費や個人資金と混ぜないことが重要です。
次の資料も保存しておきます。
- 見積書・請負契約書
- 請求書・領収書
- 振込記録
- 工事出来高確認書
- 変更・追加工事契約書
- 建築確認・検査済証
- 登記・保険関係書類
家族信託で住宅ローンは組めますか?
家族信託を利用した建替えで、最も難しいのが住宅ローンです。
通常の住宅ローンは「借りる人・建物所有者・土地所有者」が同じ、または一定の家族関係にあることを前提としています。一方、家族信託では登記上の所有者が受託者となるため、一般的な住宅ローンの仕組みに合わない場合があります。
考えられる方式には次のようなものがあります。
- 受託者が信託事務として借り入れる
- 受益者が借り入れ、受託者が担保提供する
- 受託者個人が借り入れる
- 自己資金だけで建て替える
- 信託対応可能な金融機関の商品を利用する
ただし、すべての金融機関が対応しているわけではありません。
融資で確認すること
- 家族信託中の土地を担保にできるか
- 受託者による借入れを認めるか
- 信託契約に借入れ・抵当権設定の権限があるか
- 団体信用生命保険へ誰が加入するか
- 住宅ローン控除を利用できるか
- 受益者が亡くなった場合の返済方法
- 受託者を交代した場合のローン契約
- 信託終了時に抵当権をどう扱うか
信託契約を先に作ると、希望する金融機関から「信託不動産は取り扱えない」と言われる可能性があります。必ず金融機関の事前確認を先に行い、その融資条件に合わせて信託契約を設計してください。
すでに住宅ローンや抵当権がある場合
抵当権が付いている土地・建物を家族信託に入れる場合、金融機関との契約上、事前承諾が必要になる可能性があります。
金融機関へ無断で所有権を受託者へ移すと、ローン契約上の問題になるおそれがあります。
次の順番で確認しましょう。
- 現在のローン契約書を確認する
- 金融機関へ家族信託の予定を説明する
- 所有権移転・信託登記の承諾を得る
- 借入れと担保の扱いを決める
- 司法書士が信託契約と登記を設計する
家族信託なら家庭裁判所の許可は不要ですか?
信託契約が有効に成立し、解体や建替えの権限が明確に定められていれば、受託者は原則として信託契約に従って手続きを進めます。法定後見のように、建替えのたびに家庭裁判所へ居住用不動産処分許可を申し立てる仕組みとは異なります。
これが、家族信託を建替えへ利用する大きな利点の一つです。
ただし、次のような場合は別途検討が必要です。
- すでに成年後見人が選任されている
- 信託されていない土地・建物がある
- 信託契約に解体・新築権限がない
- 受託者と受益者の利益が対立する
- 信託契約自体の有効性に疑問がある
- 受託者が自分名義の家を建てようとしている
認知症になってから家族信託を作れますか?
認知症という診断だけで直ちに契約できなくなるわけではありません。しかし、家族信託契約を結ぶには、ご本人が次の内容を理解できる判断能力が必要です。
- どの財産を信託するのか
- 誰に管理を任せるのか
- 受託者にどの権限を与えるのか
- 自分の名義が受託者名義に変わること
- 建替えや売却ができるようになること
- 信託終了後、財産を誰に渡すのか
すでにこれらを理解できない場合、家族が代理して新たな家族信託を作ることはできません。その場合は、法定後見制度を検討します。
家族信託と成年後見の違い
| 項目 | 家族信託 | 成年後見 |
|---|---|---|
| 始める時期 | 判断能力があるうち | 判断能力低下後も可能 |
| 財産管理者 | 本人が受託者を選ぶ | 家庭裁判所が後見人等を選任 |
| 管理する範囲 | 信託契約に入れた財産 | 本人の財産全体が中心 |
| 建替え | 契約に権限があれば可能 | 後見人が代理。解体には裁判所許可 |
| 介護・施設契約 | 信託だけでは包括的な代理にならない | 後見人等が対応できる |
| 本人の契約取消し | 受託者に一般的な取消権はない | 類型に応じて取消し可能 |
| 裁判所の継続監督 | 原則としてない | 原則としてある |
家族信託は、成年後見制度を完全に置き換えるものではありません。家族信託で管理できるのは、原則として信託契約に入れた財産です。
医療同意、介護方針、施設契約、信託外の財産管理などへの備えとして、任意後見契約を併用することもあります。
税金はどうなりますか?
親を委託者兼受益者とする一般的な自益信託では、信託設定時に経済的利益が子どもへ移らないため、通常は直ちに子どもへの贈与として扱われない設計が可能です。
国税庁も、一定の土地信託について、設定時の委託者から受託者への移転は所得税上の資産譲渡・取得に該当しないとしています。国税庁「土地信託に関する所得税等の取扱い」
ただし、次の場合には贈与税・相続税・登録免許税などが問題になります。
- 委託者と受益者が異なる
- 途中で受益者を変更する
- 受益権を子どもへ移す
- 受益者の死亡により次の受益者へ権利が移る
- 信託終了時に不動産を取得する人が委託者と異なる
- 親と子の建築費負担割合が登記持分と一致しない
信託終了時の登記についても、誰が残余財産を取得するかによって登録免許税の扱いが変わります。契約前に税理士の確認が必要です。
建替えに適した信託契約のチェック項目
- 土地と既存建物の両方を信託するか
- 建築資金となる預貯金も信託するか
- 受託者に解体・新築権限があるか
- 借入れ・抵当権設定ができるか
- 建築費の上限をどうするか
- 受益者の老後資金をいくら残すか
- 受託者が死亡・病気になった場合の後継受託者
- 追加工事の承認方法
- 新居を信託財産に追加する方法
- 受益者死亡後の承継先
- 信託終了時の土地・建物の帰属先
- 家族間で意見が対立した場合の信託監督人
宮崎県での進め方
家族信託を建替えに利用する場合は、次の順番がおすすめです。
- 土地・建物の名義、抵当権、共有者を確認する
- 建替え総額と老後資金の残額を試算する
- 金融機関へ信託不動産への融資可否を確認する
- 家族信託に詳しい司法書士・弁護士が契約案を作成する
- 税理士が贈与税・相続税・住宅税制を確認する
- 信託契約を締結し、所有権移転・信託登記を行う
- 受託者が解体・建築契約を締結する
- 完成後、新居の表題登記・保存登記・信託登記を行う
建築会社だけで家族信託の内容を判断するのは困難です。司法書士、税理士、金融機関、建築会社が契約前に同じ計画を確認することが重要です。
まとめ
家族信託は、判断能力があるうちに契約を整えておけば、将来認知症になった後でも、受託者である家族が建替えを進めるための有効な方法になり得ます。
ただし、成功の条件は次の3点です。
- 信託契約に解体・新築・支払い・登記の権限を具体的に定める
- 建築費を誰が負担し、新居を誰の信託財産にするか決める
- 家族信託へ対応できる金融機関を契約前に確認する
特に住宅ローンを利用する建替えは、家族信託との組み合わせが難しい場合があります。信託契約や登記を先行させず、融資・税務・建築計画を同時に設計しましょう。








