「高齢者の家は、段差をなくして手すりを付ければ十分ですか?」
「家の中の温度差も、バリアフリーに関係するのでしょうか?」
先に結論をお伝えすると、高齢者の住まいでは、段差や手すりだけでなく、部屋間の温度差を小さくすることが非常に重要です。
暖かいリビングから、寒い廊下、トイレ、洗面脱衣室、浴室へ移動すると、血管が収縮して血圧が上がりやすくなります。
さらに、寒い浴室から熱い浴槽へ入ると、血圧が大きく変動する可能性があります。
高齢者にとって温度差の少ない家は、単に快適な家ではありません。
- 身体への急な負担を減らす
- 冬の入浴事故のリスクを抑える
- 夜間のトイレへ安全に移動する
- 家の中で身体を動かしやすくする
- 将来の自立した生活を支える
ための「温熱のバリアフリー」といえます。
なぜ高齢者は温度差の影響を受けやすい?
年齢を重ねると、体温を調節する働きや、急な環境変化に対応する力が低下する場合があります。
また、寒さや暑さを感じにくくなり、本人が気づかないうちに身体へ負担がかかっていることもあります。
特に、
- 高血圧
- 糖尿病
- 心臓や血管の病気
- 不整脈
- 脳血管疾患の既往
- 自律神経の働きに影響する病気
- 睡眠薬などの服用
がある方は、温度変化や入浴方法について注意が必要です。
ただし、住宅の温度だけで健康状態が決まるわけではありません。持病や服薬がある場合は、主治医の指示を優先してください。
寒い場所では血圧が上がりやすい
身体が寒さを感じると、熱を逃がさないために皮膚の血管が収縮します。
血管が細くなると血液を送り出すための抵抗が増え、血圧が上がりやすくなります。
例えば冬の住宅では、
- 暖かいリビングから寒い廊下へ出る
- 冷えたトイレへ入る
- 寒い脱衣室で服を脱ぐ
- 冷たい浴室へ移動する
という場面で、身体が急な寒さにさらされます。
特に夜間や早朝は、血圧が変化しやすい時間帯でもあります。高齢者の住まいでは、リビングだけでなく、寝室、廊下、トイレ、水まわりの温度も大切です。
部屋間の温度差と血圧の関係
国土交通省が支援した住宅と健康に関する調査では、室内環境と血圧について、次のような知見が報告されています。
- 室温が年間を通して安定している家では、血圧の季節差が小さい
- 部屋間の温度差が大きい家では、居住者の血圧が高い傾向がある
- 床付近の室温が低い家では、血圧が高い傾向がある
- 断熱改修後に、起床時の最高血圧が有意に低下した
これらは、住宅内の寒さや温度差が血圧と関連している可能性を示すものです。
ただし、断熱性能を高めれば高血圧が治るという意味ではありません。住宅の温熱環境は、血圧へ影響する複数の要因の一つです。
特に危険なのは入浴時の温度差
冬の入浴では、短時間に大きな温度変化が起こります。
- 暖かい居間
- 寒い脱衣室
- 冷えた浴室
- 熱い浴槽
- 浴槽から立ち上がる
- 再び脱衣室へ戻る
寒い場所では血圧が上がりやすくなり、熱い湯につかると血管が広がって血圧が下がることがあります。
また、長時間の入浴によって体温が上昇すると、意識障害や溺水につながる可能性もあります。
消費者庁によると、2024年の「浴槽内での及び浴槽への転落による溺死及び溺水」の死亡者7,776人のうち、65歳以上が7,363人で約95%を占めました。事故の原因は温度差だけではありませんが、入浴前に脱衣室と浴室を暖めることなどが推奨されています。消費者庁「高齢者の浴室での事故防止」
夜間のトイレにも注意する
高齢になると、夜間にトイレへ行く回数が増える方もいます。
暖かい布団から出て、寒い廊下を通り、冷えたトイレへ移動すると、身体が急激な温度変化を受けます。
さらに暗い廊下では、
- めまい
- ふらつき
- 段差でのつまずき
- 転倒
- ドアや家具への衝突
にも注意が必要です。
寝室からトイレまでの動線では、次のような対策を検討します。
- 寝室とトイレを近くする
- 長い廊下をつくらない
- トイレの室温低下を抑える
- 足元灯を設置する
- 段差をなくす
- 手すりを設置する
- 滑りにくい床材を選ぶ
- 寒い場所に大きな窓を設けない
温度差と移動の安全性を同時に考えることが大切です。
床付近の寒さも高齢者へ影響する
室温計が20℃を示していても、床付近まで同じ温度とは限りません。
断熱・気密性能が低い住宅では、暖かい空気が天井付近に集まり、床付近が冷えることがあります。
窓の近くで冷やされた空気が床へ流れる「コールドドラフト」も、足元の寒さの原因です。
高齢者は、
- 低い椅子に座る
- ベッドで長時間過ごす
- 床に近い位置で生活する
- 足先の血流が低下しやすい
- 歩行速度がゆっくりになる
場合があるため、床付近の温度にも注意が必要です。
国土交通省の調査でも、床付近の温度が低い住宅では、居住者の血圧が高い傾向が報告されています。
寒い家は活動量を減らすことがある
家が寒いと、暖かいリビングやこたつから動きたくなくなります。
- トイレへ行くのを我慢する
- 入浴がおっくうになる
- 別の部屋を使わなくなる
- 家事の回数が減る
- 廊下を歩かなくなる
- 布団やこたつで過ごす時間が長くなる
という生活になりやすいからです。
身体を動かす機会が減ると、筋力やバランス能力が低下し、自立した生活へ影響する可能性があります。
国土交通省の高齢期の住まいに関する情報でも、温熱環境が整わないと生活全般の活動量が低下し、廃用症候群のリスクにつながると説明されています。国土交通省「高齢期の住まい・8つの配慮事項」
温度差を小さくすることは、事故対策だけでなく、家の中で自然に身体を動かせる環境づくりでもあります。
寒さを我慢しても気づかれにくい
高齢者の中には、
- 昔から寒い家で暮らしてきた
- 暖房費を節約したい
- エアコンが苦手
- 家族に迷惑をかけたくない
- 自分はまだ寒くない
という理由で、暖房を控える方もいます。
しかし、「寒くないと感じていること」と「身体に負担がないこと」は同じではありません。
感覚だけに頼らず、リビング、寝室、トイレ、洗面脱衣室などへ温度計を設置し、室温を見える化することが重要です。
冬の室温は18℃以上を一つの目安に
厚生労働省の健康情報では、成人について、18℃以下の室温と高い血圧との関連が示され、高齢者にも当てはまる可能性があると紹介されています。厚生労働省「室温と高血圧、睡眠の関係」
また、WHOの住環境ガイドラインでは、冬の室温を18℃以上に保つことが推奨されています。
ただし、18℃以上ならすべての高齢者に十分という意味ではありません。
- 年齢
- 持病
- 服装
- 活動量
- 湿度
- 床や窓の表面温度
- 暖房の風
- 個人の体感
によって、必要な温度は変わります。
18℃は最低限の一つの目安として、家族の健康状態に合わせて調整しましょう。
夏の部屋間温度差にも注意する
温度差対策は、冬だけの問題ではありません。
宮崎では夏の暑さと湿度にも注意が必要です。
冷房の効いたリビングから、高温になった廊下、トイレ、洗面室へ移動すると、身体へ負担がかかります。
また、高齢者は暑さや喉の渇きを感じにくくなる場合があり、室内でも熱中症になる可能性があります。
夏は、
- 室温と湿度を測る
- エアコンを適切に使う
- 廊下や寝室も高温にしない
- 日差しを窓の外側で遮る
- 水分をこまめに取る
- 夜間も無理に冷房を切らない
ことが重要です。
「冬に暖かい家」だけでなく、「夏に暑くなりすぎない家」を目指す必要があります。
温度差の少ない家をつくる方法
1.家全体の断熱性能を高める
屋根、壁、床、窓、玄関ドアからの熱の出入りを抑え、暖房していない場所の室温低下も小さくします。
デザインハウス宮崎では、宮崎でも断熱等級6を一つの推奨水準として考えています。
2.気密性能を確保する
断熱材を厚くしても、建物に隙間が多ければ暖かい空気は逃げてしまいます。
全棟で気密測定を行い、C値によって実際の施工状態を確認することが大切です。
3.窓の性能を高める
樹脂サッシやLow-E複層ガラスなどを採用し、窓際の冷えを抑えます。
特に寝室、トイレ、脱衣室、浴室では、必要以上に大きな窓を設けないことも重要です。
4.水まわりを孤立させない
浴室やトイレを長い廊下の先へ配置すると、移動中に身体が冷えます。
リビングや寝室から水まわりまでの距離を短くし、暖気が届きやすい間取りを考えます。
5.脱衣室と浴室を両方暖める
浴室暖房だけでなく、服を脱ぐ脱衣室にも安全な暖房設備を計画します。
入浴直前ではなく、事前に暖めておくことが重要です。
6.家全体の空気の流れを考える
高断熱住宅でも、暖房の空気が届かなければ寒い場所が生まれます。
エアコン、第一種換気、建具、間取りを一体で計画しましょう。
7.温湿度を見える化する
リビングだけでなく、寝室、廊下、トイレ、脱衣室にも温湿度計を設置します。
家のどこが、いつ冷えているのかを確認できるようにします。
高齢者の寝室で大切なこと
高齢者の寝室は、日中だけでなく夜間から早朝の温度を確認する必要があります。
- 暖房を止めても急激に冷えない
- 窓から冷気が下りてこない
- ベッドを窓際へ置かない
- トイレまでの距離を短くする
- 足元灯を設ける
- 暖房の風を身体へ直接当てない
- 操作しやすい空調設備を選ぶ
といった配慮が必要です。
エアコンや照明は、ベッドから操作できる位置にリモコンやスイッチを設けると便利です。
50代・60代の建て替えで考える理由
建て替える時点では元気でも、10年後、20年後には身体状況が変わる可能性があります。
そのため、50代・60代からの建て替えでは、
- 段差をなくす
- 手すりの下地を入れる
- 廊下や出入口の幅を確保する
- 寝室とトイレを近づける
- 1階で生活を完結できるようにする
ことに加えて、温度差を小さくする設計が必要です。
断熱や気密は、完成後に簡単に追加できません。壁や床、天井を解体する大がかりな工事になる場合があります。
将来の健康と暮らしやすさを考えるなら、新築時に優先したい性能です。
既存住宅でできる対策
建て替えや全面改修が難しい場合は、日常的に使用する範囲から改善できます。
- リビングと寝室へ内窓を設置する
- トイレ・脱衣室・浴室の窓を断熱する
- 天井や床へ断熱材を追加する
- 脱衣室と浴室へ暖房設備を設ける
- 寝室からトイレまでを部分断熱する
- 建具の隙間や冷気の侵入を確認する
- よく使う場所へ温湿度計を置く
- 暖房を弱く連続運転する
- 入浴前に水まわりを暖める
国土交通省は、住宅全体の改修が難しい場合、居間、寝室、水まわりなど、よく使う生活空間を中心とした部分断熱改修も紹介しています。国土交通省「生活空間の部分断熱改修」
ただし、改修していない場所との温度差がかえって大きくならないよう、生活動線を含めて改修範囲を決める必要があります。
高齢者住宅で優先したい場所
| 優先場所 | 温度差対策 |
|---|---|
| 寝室 | 夜間・早朝の室温低下を抑える |
| トイレ | 寝室から近づけ、窓を大きくしすぎない |
| 洗面脱衣室 | 入浴前から安全に暖房する |
| 浴室 | 断熱区域内に納め、浴室暖房を検討 |
| 廊下 | 長くせず、暖気が届くようにする |
| 玄関 | 断熱ドアや間仕切りで冷気を抑える |
| リビング | 床付近と窓際の冷えを減らす |
住宅会社へ確認してほしいこと
高齢期を見据えた住宅では、次の内容を確認しましょう。
- 断熱等級はいくつか
- UA値はいくつか
- 全棟で気密測定を行うか
- C値の目標はいくつか
- 床付近の温度差をどう考えているか
- 窓全体のU値はいくつか
- 寝室からトイレまでの距離は短いか
- 脱衣室と浴室の暖房方法は何か
- 水まわりの窓は大きすぎないか
- 廊下やトイレへ暖気が届くか
- 第一種換気の空気経路は適切か
- 夏の日射遮蔽と冷房計画があるか
- 温熱環境をシミュレーションしているか
- 断熱・気密施工を検査するか
「高齢者対応住宅」という言葉だけでなく、温度差を小さくするための具体的な性能と設計を確認することが大切です。
私たちが考える温熱のバリアフリー
高齢者のためのバリアフリーというと、段差、手すり、廊下幅、引き戸などが注目されます。
しかし、目には見えない温度差も、将来の暮らしやすさを左右します。
株式会社ツチモチとデザインハウス宮崎では、
- 宮崎でも断熱等級6を一つの推奨水準とする
- 高性能な窓を採用する
- 全棟気密測定で施工品質を確認する
- 第一種換気と冷暖房を一体で考える
- 寝室と水まわりの距離を短くする
- 脱衣室・浴室・トイレの寒さを抑える
- 夏の暑さと湿度にも配慮する
ことを大切にしています。
北海道で学んだ「家の中に極端に寒い場所をつくらない」という考え方を、宮崎の気候と暮らしに合わせて生かす。
温度差の少ない家は、高齢者を一室に閉じ込める家ではなく、家の中を安心して動ける家です。
それが、私たちの考える高齢期のための宮崎型高性能住宅です。








