A.介護保険や自治体の「住宅改修費」は、原則として既存住宅の改修を対象としており、新築・建替え時のバリアフリー工事には適用されません。
新築時に、段差のない床、広いトイレ、引き戸、手すりなどを設けても、それらは新築工事の一部であり、「既存住宅の改修」には該当しないためです。
ただし、入居後に要介護者の身体状況が変化し、新たな手すりやスロープなどが必要になった場合は、その時点で介護保険や自治体支援を利用できる可能性があります。
まず知っておきたい3つの制度の違い
「バリアフリーの補助金」と呼ばれる制度には、大きく3種類あります。
| 制度 | 新築・建替え | 主な対象者 | 主な目的 |
|---|---|---|---|
| 介護保険の住宅改修費 | 原則対象外 | 要支援・要介護認定者 | 現在の身体状況に必要な小規模改修 |
| 自治体独自の在宅介護住宅改修 | 原則対象外 | 要介護度・所得など自治体の条件を満たす人 | 介護保険の上乗せ・対象外工事の補助 |
| 省エネ・耐震・高性能住宅補助 | 新築も対象になる場合あり | 住宅性能などの要件を満たす人 | 住宅性能の向上 |
つまり、シニア向けにバリアフリー設計した新築住宅であっても、介護保険の住宅改修費が使えるわけではありません。
1.介護保険の住宅改修費とは?
介護保険の住宅改修費は、在宅で生活する要支援・要介護認定者が、安全に暮らすための比較的小規模な工事を行った場合に支給されます。
対象者
- 要支援1・2
- 要介護1~5
- 原則として、介護保険被保険者証に記載された住所の住宅に住んでいる人
- 入院・入所中の場合は、退院・退所後に戻る住宅であることなどの条件を満たす人
単に65歳以上というだけでは対象になりません。要支援または要介護認定が必要です。
支給限度基準額
工事費のうち、原則として20万円が支給限度基準額です。
| 自己負担割合 | 最大支給額 | 最大自己負担 |
|---|---|---|
| 1割負担 | 18万円 | 2万円 |
| 2割負担 | 16万円 | 4万円 |
| 3割負担 | 14万円 | 6万円 |
20万円を超えた部分は全額自己負担です。これは毎年20万円使える制度ではなく、原則として同じ住宅・同じ利用者についての累計限度額です。
ただし、転居した場合や要介護状態区分が大きく上がった場合には、改めて利用できる特例があります。厚生労働省「居宅介護住宅改修費等の支給」
2.介護保険で対象になる工事
主な対象工事は次のとおりです。
- 手すりの取り付け
- 床段差の解消
- 滑りにくい床材への変更
- 畳からフローリングなどへの変更
- 開き戸から引き戸・折れ戸への変更
- ドアノブからレバーハンドルへの変更
- 和式便器から洋式便器への変更
- 上記工事に付帯して必要となる工事
対象になりにくい工事
次のような工事は、一般的には介護保険の対象外です。
- 新築・建替え工事
- 居室を新設する増築
- 老朽化した設備の単純な交換
- 住宅全体のリフォーム
- キッチン全体の交換
- 浴室全体の高級化
- エアコンや床暖房の設置
- 福祉目的ではない間取り変更
- 外構全体や駐車場の整備
増築工事そのものは対象外でも、廊下の拡幅と同時に取り付ける手すりなど、対象部分だけが認められる場合があります。工事一式ではなく、介護に必要な部分を分けて見積もる必要があります。
3.なぜ新築時は対象外なの?
介護保険の住宅改修は、現在の住宅にある不便や危険を、本人の身体状況に合わせて改善するための制度です。
新築では、設計段階から必要な設備を盛り込めるため、一般的な建築費・資産形成の一部と考えられます。
例えば、次の設備を新築時に設置しても、通常は介護保険住宅改修費の対象になりません。
- 玄関スロープ
- 廊下やトイレの手すり
- 段差のない床
- 車椅子対応の広いトイレ
- 引き戸
- バリアフリーユニットバス
- 昇降機やホームエレベーター
要介護認定を受けている人が建て替える場合でも、原則は同じです。
4.建替え後ならすぐに利用できる?
建替え後、身体状況に応じた新たな改修が必要になれば、介護保険住宅改修費を利用できる可能性はあります。
しかし、完成直後に「補助金を使うために手すりを後付けする」という計画はおすすめできません。
- 新築時から必要性が分かっていた工事ではないか
- 新築工事の一部ではないか
- 本人の身体状況に基づく改修か
- 保険者が改修の必要性を認めるか
などを確認されます。
補助金を利用するために必要な設備をあえて付けず、完成後に工事するより、新築時に安全性・使いやすさ・下地補強まで整えておく方が合理的です。
5.宮崎市独自の「住宅改修補助事業」とは?
宮崎市では、介護保険の住宅改修とは別に、一定の所得要件を満たす要支援・要介護認定者を対象とした住宅改修補助事業があります。
2026年の宮崎市資料では、次のように案内されています。
- 要支援・要介護認定者が対象
- 一定所得以下の世帯が対象
- 上限20万円
- 所得・課税状況により補助率が異なる
- 工事項目ごとに限度額がある
- 着工前の申請が必要
対象工事には、介護保険住宅改修の対象工事に加えて、要介護度などの条件に応じて次の工事が含まれます。
- 移動・介護に必要なスペースの確保
- 浴室改修
- 給水栓の取り替え
介護保険と宮崎市独自支援の違い
| 比較項目 | 介護保険住宅改修 | 宮崎市独自の住宅改修補助 |
|---|---|---|
| 制度の主体 | 全国共通の介護保険 | 宮崎市 |
| 対象者 | 要支援・要介護認定者 | 認定者のうち所得などの条件を満たす世帯 |
| 年齢だけで利用可能か | 不可 | 原則不可 |
| 対象工事 | 手すり・段差解消など6区分 | 介護保険対象工事の超過・対象外部分など |
| 限度基準 | 原則20万円 | 上限20万円・項目別限度あり |
| 補助割合 | 原則7~9割 | 所得・課税状況等によって異なる |
| 新築時 | 原則対象外 | 原則対象外 |
| 申請時期 | 必ず着工前 | 必ず着工前 |
| 相談先 | ケアマネジャー・地域包括支援センター | ケアマネジャー・宮崎市介護保険課 |
市独自支援は、介護保険と無条件で合計40万円まで使えるという意味ではありません。介護保険の対象額、自己負担額、対象外工事、市の補助対象額を分けて審査します。
6.宮崎県内でも市町村によって制度が違う
在宅介護向けの上乗せ制度は、宮崎市だけでなく、県内の市町村ごとに内容が異なります。
違いが出やすい項目は次のとおりです。
- 所得制限
- 対象となる要介護度
- 補助上限額
- 対象工事
- 持ち家・借家の条件
- 市税滞納の有無
- 同居家族の所得
- 受付期間と予算枠
宮崎県は、県内市町村の住宅関連補助制度をまとめた2026年度版資料を公開しています。ただし、最終的な条件は住宅所在地の市町村へ確認する必要があります。宮崎県「みやざき住まいの安心情報バンク」
7.障がい者向け住宅改修制度との違い
身体障がい者手帳、療育手帳、難病などに該当する場合は、介護保険とは別の障がい福祉制度を利用できる可能性があります。
ただし、65歳以上などで介護保険の対象となる場合は、原則として介護保険が優先されます。また、宮崎市の重度障がい者住宅改修制度では、新築や新たに取得した住宅、転居後1年未満などが対象外になる場合があります。
「介護保険が使えないから障がい者制度を使う」という単純な選択はできません。
8.新築時にやっておきたい「将来の改修準備」
補助金の対象にならなくても、建替え時には将来の介護を見越した設計にしておく方が、総費用を抑えられます。
最初から設置したいもの
- 玄関・室内の段差解消
- トイレ・浴室・寝室への引き戸
- 滑りにくい床材
- 1階だけで生活できる間取り
- 寝室からトイレまでの短い動線
- 車椅子でも通りやすい廊下・出入口
- 浴室のまたぎ高さを抑えたユニットバス
- 玄関や外部通路の夜間照明
下地だけ準備しておくもの
身体状況によって位置が変わる設備は、最初から取り付けるのではなく、下地を入れておく方法があります。
- 廊下の手すり用下地
- トイレの縦・横手すり用下地
- 浴室手すり用下地
- 玄関ベンチ用下地
- 天井走行リフト用の構造補強
- 将来のスロープ設置スペース
- 車椅子対応洗面台への交換スペース
手すりの適切な高さや位置は、本人の身長、利き手、麻痺の有無、介助方法によって異なります。将来の設置位置を変更できるよう、壁の広い範囲に下地を入れておく方法が有効です。
9.申請で失敗しないための手順
介護保険や自治体の住宅改修支援は、原則として工事前の申請が必要です。
- 要支援・要介護認定を確認する
- ケアマネジャーまたは地域包括支援センターへ相談する
- 本人の身体状況と生活動線を確認する
- 施工業者から工事前見積書・図面・写真を取る
- 住宅改修が必要な理由書を作成する
- 市町村へ事前申請する
- 着工承諾・支給決定を待つ
- 承認後に工事を始める
- 完成写真や領収書を添えて事後申請する
申請前に工事を始めると、原則として支給対象外になるため注意してください。
結論
- 介護保険のバリアフリー住宅改修費は、新築・建替え時には原則使えない
- 年齢ではなく、要支援・要介護認定と改修の必要性が条件
- 介護保険は原則20万円を限度に7~9割を支給
- 宮崎市には、一定所得以下の認定者を対象とする独自の上乗せ支援がある
- 自治体独自制度も、基本的には完成済みの住宅の改修が対象
- 建替え時は補助金を前提にせず、将来の手すり設置用下地や介護動線を準備する
- 入居後に身体状況が変わった場合は、その時点で介護保険・自治体支援を検討する
シニアの建替えでは、補助金を受けるために設備を後付けするより、新築時に段差・動線・出入口幅を整え、身体状況によって変わる手すりだけ後から設置できるようにする方法が現実的です。
※制度内容は2026年8月16日時点です。実際の利用前に、住宅所在地の市町村介護保険担当課へご確認ください。








