はい、工夫できます。車いす対応キッチンでは、天板の高さだけでなく、シンクや調理台の下に膝が入る空間をつくることが最も重要です。
一般的なキッチンを単に低くするだけでは、収納部分に膝や車いすのフットサポートが当たり、蛇口やコンロまで手が届かないことがあります。
キッチン高さの目安
| 部分 | 設計の目安 |
|---|---|
| ワークトップ上面 | 床から700~800mm程度 |
| 膝が入る部分の下端 | 650~700mm程度 |
| 膝下スペースの幅 | 750mm以上を目安 |
| 膝下スペースの奥行き | 400~500mm程度を目安 |
| 車いすの通路幅 | 900mm以上、介助を考えるなら1,200mm程度 |
| 方向転換スペース | 直径1,500mm程度を目安 |
これらは一律の法定寸法ではなく、設計を始めるための目安です。本人の身長、座面高、腕の長さ、車いすの寸法によって調整します。
国土交通省のバリアフリー事例でも、車いす使用者の膝が入るように、カウンター下端を約70cm、上面を約76cmとした例や、シンク・コンロ下に引き出しを設けない例が紹介されています。国土交通省「バリアフリー設計事例」
高さは実際の車いすで確認する
適切な高さは、次の手順で決めると失敗が少なくなります。
- 普段使う車いすに座る
- 太もも・肘・フットサポートの高さを測る
- ショールームでキッチン前に近づく
- 蛇口・コンロ・換気扇スイッチに手が届くか確認する
- 鍋を持ち上げずに横移動できるか試す
将来、電動車いすや姿勢保持型の車いすへ変わる可能性も考え、少し余裕を持たせます。
夫婦で共用し、片方が立って調理する場合は、昇降式ワークトップや、高さの異なる二つの作業台も選択肢です。
シンク下はオープンにする
シンクの下を開放すると、車いすに座ったまま正面から作業できます。
ただし、次の安全対策が必要です。
- 排水管を奥側に寄せる
- 給湯管や排水管に断熱カバーを付ける
- 膝が配管や金具に当たらないようにする
- 浅型シンクを採用して膝上空間を確保する
- 水栓は手前側または横側に配置する
- レバーハンドル式やタッチレス水栓を採用する
- 水温の上がりすぎを防ぐ機能を付ける
シンクを浅くしすぎると水が跳ねやすくなるため、膝の高さとのバランスが重要です。
コンロはIHが使いやすい
車いすでは、鍋の中を上から確認しにくく、袖や身体が火に近づきやすいため、IHクッキングヒーターが比較的使いやすいでしょう。
おすすめの仕様は次のとおりです。
- 火を使わないIH
- 操作部が手前にある
- 切り忘れ防止機能
- 空焚き・過熱防止機能
- 鍋を横へ滑らせられる平らな天板
- 音だけでなく表示でも作動状態が分かる
- 換気扇のスイッチを低い位置に設ける
IHでも鍋や天板は熱くなります。シンクとコンロの間に連続した作業台を設け、熱い鍋を持ち上げずに滑らせて移動できるようにします。
おすすめのキッチン配置
車いすでの方向転換を減らすには、シンク、調理台、コンロ、冷蔵庫を近くにまとめることが重要です。
I型キッチン
横方向へ移動するだけなので、車いすでは比較的使いやすい配置です。ただし横に長すぎると移動距離が増えるため、シンクとコンロを離しすぎないようにします。
L型キッチン
少ない移動で作業できますが、角の収納や奥の作業スペースが使いにくくなることがあります。コーナー部分を無理に収納にせず、作業面として利用する方法があります。
対面キッチン
家族との会話や見守りには適しています。背面収納との間隔は、車いすだけなら900mm以上、介助者も入るなら1,200mm程度を目安にします。
U型・アイランドキッチン
広い回転スペースが確保できれば使用できますが、通路が狭いと車いすが挟まれます。アイランド型では、周囲の一部だけでなく、普段使う動線全体の幅を確認してください。
収納は「低い位置」だけでも不便です
車いす対応だからと、すべての収納を床近くにすると、奥まで手が届きにくくなります。
- 使用頻度の高い物は腰から肩の高さに収納
- 引き出しは軽く開閉できるものにする
- 吊戸棚は電動昇降式または手動昇降式にする
- 食器棚は引き戸にする
- 奥行きを浅くして、奥の物にも手が届くようにする
- 炊飯器や電子レンジは座ったまま中を確認できる高さにする
- コンセントを手前側に設ける
- ごみ箱も座った状態で使用できる位置に置く
開き戸は、開いた扉が車いすの動線をふさぐことがあります。引き出し式収納や引き戸が使いやすいでしょう。
冷蔵庫にも注意が必要です
冷蔵庫は、扉の開く方向によって車いすの近づき方が変わります。
- 車いすを横付けできる場所に置く
- 壁際に寄せすぎない
- 扉を開けたとき通路をふさがないようにする
- よく使う食品を中段に収納できる機種を選ぶ
- 冷凍室・野菜室の引き出しを最後まで開けられるか確認する
図面上では納まっていても、扉と車いすがぶつかることがあります。冷蔵庫の扉を全開にした状態まで図面に記載してもらいましょう。
床と出入口の工夫
宮崎県の住宅統計では、車いすで通行できる廊下や出入口の目安として約80cm以上が示されています。宮崎県「住宅・土地統計調査」
キッチンでは、さらに次の点を確認します。
- 出入口の有効幅を800mm以上確保する
- 床に段差を設けない
- 滑りにくく、車輪が沈まない床材を選ぶ
- キッチンマットを置かなくてもよい床にする
- 引き戸を採用する
- 床下収納庫を車いすの通過位置に設けない
- 配線コードを床に出さない
クッション性が強すぎる床材は、車いすが動きにくくなる場合があります。適度な防滑性があり、硬く平らな床材が基本です。
宮崎の暑さ・湿気対策
宮崎では、夏の調理中の暑さにも配慮が必要です。車いす使用者は、暑い場所から素早く移動することが難しい場合があります。
- キッチンまで冷房が届く間取りにする
- 強い西日が直接入らない位置に配置する
- IHと高効率レンジフードを採用する
- 調理中も操作できる低い位置に換気スイッチを設ける
- パントリー内に熱がこもらないよう換気する
- 停電時にも移動しやすい通路を確保する
建築基準法による高さの制限はありますか?
一般的な戸建住宅のキッチンについて、建築基準法が車いす用天板の高さを一律に定めているわけではありません。
そのため、実際の利用者に合わせて設計できます。ただし、換気設備、火気使用室の内装、給排水、電気設備などは、それぞれ関係法令や施工基準に適合させる必要があります。
まとめ
車いす対応キッチンの基本は、次の5点です。
- 天板を700~800mm程度から個別調整する
- シンク・作業台の下に膝入れ空間を確保する
- シンク・調理台・IHを横移動できるよう連続させる
- 通路を900~1,200mm程度、回転部分を約1,500mm確保する
- 本人の車いすを使ってショールームで確認する
最も大切なのは、一般的な「車いす対応寸法」をそのまま採用せず、本人の身体寸法と車いすに合わせて決めることです。 理学療法士・作業療法士に調理動作を確認してもらうと、より安全な計画になります。








